平成24年度SJS患者会総会講演記録

目次

SJS患者支援研究班講演

研究班講演4:外園千恵(京都府立医科大学眼科)

●挨拶

京都府立医大眼科の外園と申します。病気になったときの経過などを皆さんから聞かせていただいて、それを解析できるように研究補助の人にデータベースに入力してもらっています。それが220人ぐらいになりました。患者会発足10年目の総会でもお話しさせていただいたかもしれませんが、私は、患者さんは3回苦しい思いをされていると思います。まず、この病気になったという事実です。次に、後遺症で、見えないとか乾くという思いをされています。もう一つは、薬が怖いということです。発症してから、たまたま風邪をひいて病院に行っても、治療すらしてもらえなかったというように、病気に対する医療側の不安から、診療拒否を受けるということです。鹿庭先生と上田先生の研究が進むと、3番目のことがずいぶん良くなると思っています。皆さんに協力していただいていることも、早ければ10年、20年したところでリターンできるのではないかと思っているところです。私たちのところに患者会の方が来られるときには、すでに採血に協力するこころづもりで来てくださるのは大変ありがたいと思っています。

今日は、一つはドライアイの話をします。いろいろな新しい薬が出てきました。皆さん関心があると思いますので、その話をします。そしてあと一つは、これからやっていこうという再生医療とコンタクトレンズが、どういう位置づけにあるかという話をします。

●ドライアイのあたらしい目薬1 ジクアス

まず、後遺症としてはたぶんドライアイが一番多いと思います。ドライアイに対して使える目薬の種類は、それほど多くはありません。一つはヒアルロン酸で、商品名でいうとヒアレインやヒアレインミニです。これは、眼科では角膜保護剤という位置づけで承認を得ています。乾燥すると、黒目のところがザラザラとしてくるので、それを防ぐことを目的とした目薬です。それから、人工涙液があります。生理食塩水や涙に近い水分を補充するものです。それが効かない方は、涙点プラグで涙が出ていく出口を閉じて、涙が鼻に流れていかないように治療するのが一般的です。ドライアイの治療法は、涙を補充するということと、涙が出ていくのを防いで溜めておくということの二つであることは、10年前も今も変わりはありません。

新しい目薬が開発されて、この2年ぐらいの間に、2種類の目薬が処方薬として承認されました。どこのクリニックでも処方できます。一つは、ジクアスという参天製薬の目薬です。もう一つは、ムコスタという大塚製薬の目薬です。

涙には、水分、粘液、脂の3種類の成分が含まれています。90%以上が水分です。ですので、乾燥すると、ヒアルロン酸で角膜を保護しながら人工涙液で水分を補充するということが理にかなっています。しかし、粘液を補充することは難しいです。

ジクアスは、水分を補充するというコンセプトとは違う目薬です。ジクアスは、目の表面の細胞からムチンという粘液を分泌する力を上げて、涙の水分を保留しやすくするといわれています。このメカニズムからすると、おそらくスティーブンス・ジョンソン症候群の視力障害やドライアイの軽症の方には、効く可能性があると思います。しかし、重症の方になると、目の表面が角化していますので、私は、ジクアスは効きにくいのではないかなと思っています。一般的なドライアイも含めて、ジクアスの効果は、まだ検証中です。

もう一つ、今、わかってきたこととして、ジクアスは、1ヶ月以上使って効果が出てくるといわれています。1週間使って効かないからといって、次々変えていくと、何もわかりません。もし、かかりつけの先生にジクアスを処方していただいた場合、あまりに痛かったりしみたりしたらやめていいと思いますが、「どうかな、どうかな」と思う場合には、1ヶ月ぐらい続けてから、継続するかどうかを決めるといいと思います。

ジクアスとヒアレインとはメカニズムが違うので併用してもいいですし、効いたところでどちらかをやめるというやり方でもいいと思います。ただ、ドライアイの処方薬が3種類以上になるのは、何が効いているのかわかりにくく防腐剤の副作用も懸念されますので、慎重に考えたほうがよいと思います。

●ドライアイのあたらしい目薬2 ムコスタ

ムコスタは、承認される前の治験を、私と上田先生で実施しました。医薬品機構から、「ドライアイの新しい目薬は、スティーブンス・ジョンソン症候群の患者さんがずっと使うことになるでしょう。ですから、スティーブンス・ジョンソン症候群の方に一年間使っていただいて、有害事象がないかみてください」と言われ、私たちの施設で5人の方に治験をさせていただきました。

それはすごく大変でした。なぜかというと、治験を開始するまえに、今まで使っている涙液補充剤をいったんやめないといけないのです。スティーブンス・ジョンソン症候群の方には、涙液補充剤をやめられる人がなかなかいないんですね。だから、やめられる方で協力できる人ということで、本当に辛い思いをしながら協力をしていただきました。1年間使っても、重篤な副作用はありませんでしたので、ムコスタは、スティーブンス・ジョンソン症候群で承認がとれました。

元々、ムコスタは、胃の粘膜保護剤として飲み薬があります。なぜ胃の粘膜を保護するのかメカニズムは十分にはわからないのですが、人気があって何十年も使われている薬です。なので、点眼薬でムコスタがどのように効くかということを、今、上田先生が基礎実験として、詳しく見てくださっているのですが、炎症を抑える効果がありそうです。

京都府立医大に来られているスティーブンス・ジョンソン症候群の方には、「じゃあ使ってみますか」ということで、「2週間使って効果がなければやめましょう」ということで使っています。2週間限定処方なのです(2012年11月まで)。実際に使ってみますと、充血が減る人が多いという印象があります。スティーブンス・ジョンソン症候群の方は、目に炎症があって充血していて、フルメトロンなどのステロイド点眼薬を使っている人がけっこういます。でも、それをやめることができるぐらいの方もあるので、ムコスタには可能性があると思っているところです。

皆さん、「いい感じがする」ということで、継続して1年間使った方でも、今のところ重篤な合併症は出ていませんので、副作用はあまり心配ないと思っています。ただ、どんなふうに効くか、どういう方に有効かについては、もっと長期間診ていかないといけないと考えています。

●目薬の注意事項1 眼圧

一つは、ステロイドの目薬です。目の表面に常に炎症がある方が多いです。炎症というのは、充血したり痛かったりというようなことです。その状態に対して、フルメトロンやサンテゾーンというステロイドの目薬を入れると楽になります。ところが、ステロイドの副作用として、眼圧が上がることがあります。眼圧が上がると緑内障になって、視神経を傷めます。

ところが、眼圧は、目の表面が変形していたり濁っていたりすると、うまく測れません。測る回数が減ったりしますので、副作用に気づくことが遅くなることがあります。なので、自分が使っている目薬の中にステロイドがあるのかないのかを知っておいていただいて、半年に1回ぐらい「私の眼圧は大丈夫ですか」と聞くと、合併症のリスクはかなり減ると思います。

●目薬の注意事項2 ジェネリック

もう一つは、ジェネリックです。飲み薬でも点滴でもすべての薬が、最初に開発した製薬会社の手を離れてから、それを真似して作ることが認められています。それがジェネリックです。ジェネリックは、費用が安いので、ジェネリックをすすめられることは多いと思います。

例えば抗生物質の目薬であれば、抗生物質とそれを溶かしている水分があります。同じ抗生物質なら中身が全く同じであると思いがちですが、それを溶かしている水分に何が入っているかは、メーカーにより異なってきます。ですので、角膜に病気があって目薬を入れている場合に、薬剤のほかに、それを溶かしている水分の影響を受ける可能性があります。ジェネリックに変えてみて、状態が同じでしたら、安いというメリットがあるので続けたらいいと思います。でも、もし目が痛くなったり赤くなったりしたら、いったんやめてみて、そのせいかどうかを見直してみましょう。

●新しい治療法1 培養口腔粘膜上皮シート移植

では、後半の、新しい治療についてです。一つは、私たちは1999年から、培養角膜上皮シート移植という、人工的に作った上皮シートの移植をしてきました。2002年からは、培養口腔粘膜上皮シート移植という治療をしてきました。これは、患者さん自身の口の粘膜を少し採って、その細胞を増やしてシート状にして患者さんに戻すというものです。培養口腔粘膜上皮シート移植は自分の細胞なので拒絶反応が起こりません。約100人にさせていただきました。

スティーブンスジョンション症候群の方では、大まかに半分の方で視力が良くなりました。ただ、0.01だった視力が1.0になるのではありません。0.01が0.05になるとか、0.01なかったのが0.03になるというものです。そこは、見える方からするとなかなか理解いただき難いのですが、患者さんに喜んでいただける効果が出ました。残り半分の方は、最終的には移植をする前に近い視力に戻りました。ですが、数字上の視力は同じだけれど、少し見やすいとおっしゃっていただく方もあります。合併症で失明したという方はありませんでした。

現在、厚生労働省へ先進医療Bとして申請しています。先進医療Bというのは、「研究でいくらうまくいっても、いつまでも研究にしていてはいけません。ちゃんと制度に乗せてください」ということです。先進医療Bに乗せるということで、その治療費を計算したら、なんとシート代に200万円を超える費用がかかってしまいます。この制度では、それが患者負担になってしまいます。それで私は、「視覚障害が軽くなるための治療がやっとできたのに、何故それを患者さん負担でやらないといけないか」という思いをずっと抱えていて、何とかしたいと思っています。ぜひ早く社会に還元したいにも関わらず、障害のある方が治る治療ができたという前例がないのと、再生医療であるということで、制度に乗せたときに高額な治療費が患者さん負担になってしまっています。何か良い方法はないかと思いつづけています。7月には、木下教授、湯浅さんと一緒に厚生労働省に相談に行ってきました。現在進行形で、来年中ぐらいに何とかしたいと思っています。そこを解決したところで、また治療を再開したいと思っています。

●新しい治療法2 輪部支持型ハードコンタクトレンズ

最後に、私どものほうで開発した輪部支持型ハードコンタクトレンズがあります。研究で約40人ちょっと超えるぐらいのスティーブンス・ジョンソン症候群の方に使っていただいています。これは予想以上に効果がありました。

スティーブンス・ジョンソン症候群にかかると、黒目の表面がデコボコになり、かつ濁ってきます。濁りを取らないと視力は出ないのですが、デコボコのために見えにくい場合は、眼鏡では視力は出ません。ソフトコンタクトレンズでは、多少乾燥を防ぐことはあっても、なかなか視力は出ません。ハードコンタクトレンズでは、少し見やすいのですが、一般的なハードコンタクトレンズは直径が8mm前後のため、瞬きや乾燥して落ちたりします。それで、サンコンタクトの方と直径14mmのハードコンタクトレンズをデザインしました。それを乗せると、カバーする範囲が広いので、乾きが出ず、涙も交換して見えやすいという効果が出ました。早速、承認されるように今週も医薬品機構に行ってまいりました。いずれお届けできるのではないかと思います。

いざ治験となると新規の患者さんに試す必要が出ると思います。目処がたった段階で、ご希望の方があれば、治験をさせていただきたいと思っています。

●まとめ

新しい治療法には、目薬も手術もコンタクトレンズもあります。そういうのが早く承認を受け、安全に使えるように情報交換をしながら進めていきたいと思っているところです。

以上で終わります。ありがとうございました。

発行人

湯浅和恵(SJS患者会代表)

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