平成24年度SJS患者会総会講演記録

目次

SJS患者支援研究班講演

挨拶:外園千恵(京都府立医科大学眼科)

●SJS患者支援研究班の紹介

京都府立医大眼科の外園と申します。毎月1回スティーブンス・ジョンソン外来をしています。うちの外来に来られている方も多いので、知った方もたくさんいらっしゃるなと思いながら参加させていただいています。

10年以上前に、厚生労働省に重症薬疹の研究班ができ、皮膚科の先生を中心に、スティーブンス・ジョンソン症候群と中毒性皮膚壊死症の診断基準が作られました。私は、上司である木下教授と一緒に、この病気は目が治らないということに取り組んでいました。そして、厚生労働省に、このような研究をしたいという申請をしようと思ったときに、この研究班の存在を知りました。皮膚科の先生のグループだったのですが、入れていただいて、10年ぐらい、一緒に研究を進めてきています。重症薬疹の研究班は、狩野先生と同じ杏林大学の塩原先生が研究班長で、私はその中の眼科の部分で研究させていただいています。

毎年この時期に、厚生労働省が補助金申請の募集をかけます。昨年の今ごろ(2011年12月)、「患者さんを支援する研究を募集します」という募集が出ました。応募は、インターネットで登録します。申請書を作るのは大変な仕事でしたが、今日来てくださいました鹿庭先生・狩野先生・上田先生に研究分担のご快諾をいただきました。患者さんを支援することが目的の研究補助金なので、湯浅さんには患者会代表として研究班に協力いただいています。今日は、この4人とで、研究班の全メンバーです。ぜひ、協力して、これから少しでもいいようにしていきたいと思います。

●報告の概要

一つは、現在、この病気になって悩みを抱えている方に、どういった解決ができるのかということです。それは、医学的なこともあると思いますし、制度的なこともあると思います。そういったことも掬い上げていってほしいと聞いています。なので、そういう情報をいただきたいです。

そして、なぜなるのかということがわかっていません。なぜなるのかがわかれば、発症する人の予防にもなりますし、既に発症された方でも、無闇に薬を怖がる必要がなくなることに、いずれは結びついていきます。なので、患者さん自身の素因を調べることは重要だと思います。

一番目にお話しくださる狩野先生は、皮膚科の立場で患者さんをたくさん診てこられています。

続きまして、鹿庭先生、上田先生に、素因について話していただきます。他の人と同じように同じ薬を飲んだのに、なぜ発症してしまったんだと思われている方が多いと思います。それは本当にそうです。例えば、成人になってからかかる病気は、それまでの生活が原因になってなる病気も多いと思います。でも、この病気は、たまたま薬を飲んだだけで発症されていて、不摂生をしていたわけでも何でもありません。そうしますと、その人がなぜなったかを調べる必要があります。お二人の先生には、そのことを説明していただきます。

私は、眼科ですので、ドライアイの新しい目薬のことや、眼科治療のアップデートの話をしたいと思います。

研究班講演1:狩野葉子(杏林大学医学部皮膚科)

●自己紹介

皆さん、こんにちは。今日は、SJS患者さんの会にお招きいただきまして、ありがとうございます。 SJSを始めとして薬疹について最新の情報をお伝えできればと思っています。

最初に自己紹介をさせていただきます。私は狩野葉子と申します。1977年に杏林大学を卒業し研修、その後、世田谷の国立大蔵病院(現:国立生育医療センター)の皮膚科医長として勤務しました。その後、杏林大学医学部に戻り、現在、皮膚科の臨床教授をしています。専門領域は、薬疹、ウイルス性発疹などです。

●SJSについて

SJSは、大部分が薬剤に起因する疾患です。原因薬剤のうちで多いものは、解熱鎮痛薬やそれが含まれる風邪薬、尿酸を下げる薬、抗痙攣薬や抗てんかん薬などです。一部には、ウイルス性疾患などに感染し、あるいは感染後に薬剤を飲んで発症するという場合もあります。現在、詳細なメカニズムにはわかっていません。感染症としては、マイコプラズマなどもあげられています。

SJSとTENは、一連の疾患であり、表皮が傷害される面積が、全身の10%未満のものをSJS、10%以上のものをTENと分類しています。SJS/TENは、非常に稀な疾患で、本邦では1年間に100万人に3,4人くらいの発症です。杏林大学の症例数は、2000年以降、SJSは14人、TENは11人であり、年間1人~2人ぐらいの患者さんが来院します。湿疹やアトピー性皮膚炎などと比べると、患者さんの数が非常に少ない疾患といえます。このような現状もあり、初診時に診断がつきにくいということがあるのかもしれません。

●コクサッキーウイルスの関与が疑われた症例の提示

最近、私が経験した症例を紹介させていただきます。コクサッキーウイルスの関与が疑われた例です。

患者さんですが、この方は40歳代の女性で、託児所勤務です。お子さんと接する機会が多いという職業的な背景があります。

○月○日に37℃台の発熱と、眼球結膜の充血がありました。翌日、咽頭痛にて近くの内科を受診し、鎮痛解熱薬を処方されています。その翌日には、熱が39℃の高熱になり、口腔内にただれが出現し、総合病院へ紹介されました。そこで、眼が赤いのでアデノウイルス感染症が疑われ、迅速検査を受けましたが、陰性でした。眼科で、結膜炎の診断を受けています。また、解熱薬とレボフロキサシン内服、オフロキサシン抗菌薬点眼薬やフルメトロン点眼薬も処方されています。そして、次の日、症状が増悪化して、皮膚科を受診し、SJSを疑われて、当科を紹介・受診されました。この症例では、日ごとに症状が激しくなってきています。 初期の経過からSJSを疑われるまで3日間要しここまでに4つの科を受診しています。

初診時の所見です。眼の充血、眼脂、口唇のただれなど、眼と口に症状が出ています。喉の痛みがあって、水も飲めない状態でした。耳鼻科で診てもらったところ、扁桃から声帯にかけて粘膜上皮の欠損みられました。眼科を受診すると、角膜上皮の欠損があり、眼に障害が起こるだろうということが予測されました。重篤な状態でしたので、患者さんにその当日に入院していただきました。

検査データです。白血球数は、少し減少しています。ウイルス感染症のときに出てくる異形リンパ球は、2%です。炎症反応(CRP)が6で、これは肺炎などの時と同じぐらいの値です。この時点でコクサッキーウイルス抗体価は32倍でした。マイコプラズマ(PA)は、40倍以下という値でした。

プレドニゾロンを60mgというステロイドの大量療法で治療を開始しました。体重50kgぐらいの人でしたので、おおよそ、体重1kgあたりステロイド1.2mgという量です。プレドニゾロンは、60mgを約10日間、40mgを1週間、30mgを1週間、投与しました。大体1ヶ月ぐらいで、眼症状、口腔粘膜症状が軽快していきました。

この症例にウイルス感染が関与していたという証拠ですが、コクサッキーウイルスの抗体価が最初は32倍でしたが、10日ぐらい経ちますと64倍に上がり、その後、16倍に下がっています。ウイルス感染後に抗体がたくさんできて、その後、低下していったという推移は、ウイルス感染の状態にあったことを示唆しています。

●コクサッキーウイルスについて

コクサッキーウイルスについて説明します。コクサッキーウイルスは、口の中に水疱を作るヘルパンギーナの原因になるウイルスです。お子さんがよくかかるウイルスです。また、2,3年前から手足口病が流行って話題になることがありますが、コクサッキーウイルスは、手足口病の原因にもなります。手足口病の場合、成人では手、足、口のみでなく体幹にも出て、水痘様のようになることもあります。このウイルスは、腸管や咽頭粘膜などで増殖しますので、経口感染、飛沫感染します。興味深いこととして、コクサッキーウイルス感染後に、爪甲(そうこう)が脱落することがあります。

●ヘルペスウイルスの関与が疑われた症例

ヘルペスウイルスは、風邪をひいたときや体調の悪いときに口の周りに小さな水ぶくれができる口唇ヘルペスの原因になるウイルスです。

この患者さんは、10歳代の男児です。口唇ヘルペスができています。このヘルペス出現時に手にも赤い水ぶくれができます。このようなことを何回か繰り返していましたが、発熱も伴ってきて来院されました。薬も内服していました。臨床的にSJSに非常に近い状態になっています。

検査データです。口唇の皮疹からヘルペスウイルスが検出されていますので、感染は間違いないと思います。マイコプラズマは、陰性です。この症例は口唇ヘルペスになるたびに紅斑が出てくるのですが、内服ステロイド薬を使ったり使わなかったりしているうちに、SJSに近い病態になってきています。

●まとめ

SJSの原因としては、薬剤が圧倒的に多いということは皆さんご存じと思いますが、今日は、感染症によって、あるいは感染症を契機にして、SJSが発症する可能性もあることを述べさせてもらいました。SJSの原因の検査で、原因薬剤がみつからない場合もあります。そうしたときには、感染症などの検査も同時に進めていく必要があると思っています。

本日は、このような機会をお与えいただき、どうもありがとうございました。