吉原理江さん(仮名)(当時22歳・女性)
希望していた企業に就職し、はりきって新社会人としてのスタートを切っていた吉原さん。休みの日には友達と一緒に好きなアーティストのコンサートに出かけたりして、毎日が充実していました。そんなある朝、発熱と頭痛を感じ、家にあった解熱鎮痛薬を服用したのですが…。
吉原さんがスティーブン・ジョンソン症候群を発症したのは22歳の初夏でした。大学を卒業し、新社会人として働き始めて数ヵ月後のことでした。
朝起きたときに微熱と咽頭痛を感じた吉原さんは、風邪かなと思い、家にあった市販の解熱鎮痛薬を飲んでから出勤しました。以前にも飲んだことある薬でしたし、用法・用量を守り、使用期限内の服用でした。それから2~3時間後、仕事中に吉原さんは口元に違和感を覚えました。唇が腫れぼったく、熱をもっているように感じたのです。
翌朝になると、目が充血していたので、眼科を受診しました。眼科では「ウイルス性結膜炎の疑い」という診断を受け、点眼薬をもらいました。一方、熱や頭痛など風邪のような症状はよくならず、顔に赤い発疹があらわれ、熱は39度にあがっていました。吉原さんは引き続き、同じ解熱鎮痛薬を飲みました。でも熱は下がりません。1日も早く風邪を治したいと思った吉原さんは、会社を休んで近所の内科クリニックを受診しました。そこの医師からは、症状が風邪とよく似ている「手足口病だろう」と言われました。
吉原さんは病院から戻り、自宅で休みましたが、熱が39~40度のままで下がりません。口の中に水疱のようなものができて、水ぼうそうのような発疹が全身に広がってきました。これはただごとではない。そう思った吉原さんは、最寄りの総合病院の夜間救急センターに駆け込みました。そこで吉原さんの症状を診た医師から、「こんな症状は、見たことがない。診断できないので、大学病院にいってください」と言われました。そして、その場で大学病院の専門医を紹介され、すぐに入院治療が始められました。顔や手にあった皮膚の発疹が、全身に広がっていました。大学病院では皮膚科医の診察を受け、「スティーブンス・ジョンソン症候群の可能性が高い」と言われました。翌日に眼科医の診察を受けて、「眼の表面にびらんがあるので、眼科も毎日診察します」と言われました。主治医より、「スティーブンス・ジョンソン症候群と診断しましたので、治療を開始します。」と説明を受け、点滴・点眼の治療を始めると、翌日から発疹はだんだんとひいて、熱がさがり、眼も開けやすくなりました。1か月半後に退院しました。
全身的な後遺症はなく、視力は良好ですがが、両目がいつも乾燥していて、長く開けていられません。パソコンを長時間みることができず、会社では配置換えをしてもらいました。「何気なく服用しだ解熱鎮痛薬が、こんなに恐ろしい病気につながるなんて思いもしなかった」と吉原さん。「お医者さんでも知らない病気と聞いて、とても不安でした。この病気を一人でも多くのヒトに知ってもらいたいと思います。」と、真剣なまなざしで話してくれました。
Dr.コメント
スティーブン・ジョンソン症候群は高頻度に39度を超える高熱を生じます。発疹は急速に全身に広がります。異変を感じた場合には、自己判断せずに病院に受診しましょう。眼が赤い場合には必ず眼科も受診してください。発疹よりも、眼の充血の方が早い場合があり、急性結膜炎あるいはウイルス性結膜炎と診断される場合があります。