土屋光司さん(仮名)(当時40歳・男性)

土屋さんは、奥さんと小学生の息子さんとの3人暮らし。下町の商店街で夫婦経営の小さな理髪店を開き、近所のお客さんからとても親しまれていました。ある日、からだのだるさを感じた土屋さんが、薬箱にあった風邪薬を飲んだところ…。

土屋さんが体に異変を感じたのは、土曜の朝でした。体のだるさを感じましたが仕事を休めないと思い、買い置きしていた風邪薬を飲みました。薬は使用期限内で、用量も用法も守りました。夕方に仕事が終わるころ急に熱が高くなり、妻に「眼が赤い」と言われました。ふと見ると手と足に赤い発疹が出ていました。いつもより早く仕事を切り上げて休みましたが、翌日に症状はよくなるどころか発疹が増えており、熱を測ってみると39度を超えていました。

病院嫌いの土屋さんでしたが、家族の強いすすめで、救急病院を受診しました。そこで医師に、「何か薬を飲みましたか?」と尋ねられたのです。そして、「薬の副作用によるスティーブンス・ジョンソン症候群の可能性がある」と言われ、そのまま総合病院に緊急搬送されました。搬送される途中で意識を失い、危篤状態に陥りました。生死の境をさまよいましたが、約1週間後に意識を取り戻し、一命を取り留めることができました。総合病院では、意識を取り戻してから眼科医の往診を受けましたが、眼の状態が悪いという理由で大学病院に転院しました。

それから1年。皮膚の症状は回復したものの、土屋さんは左目の視力が低下したままで文字を読めず、右目は新聞の大きな活字が何とか読める程度です。常に両眼が乾燥し、長く目を開けていることが出来ません。理髪店を経営していた土屋さんは、ハサミやカミソリを扱うことができなくなり、お店を閉めました。それでも土屋さんは、「助かった命に感謝している。支えてくれる家族のためにも、いつかまた店を開きたい。医学の進歩に期待しつつ、頑張っていきたい」と話してくれました。

Dr.コメント

眼の状態が重篤となるスティーブンス・ジョンソン症候群は8割の方が、高熱や発疹が出る前に「風邪に似た症状」、例えば、全身の倦怠感やのどの痛みを自覚しています。

全身が重篤であると、眼の治療は後回しになりますが、眼科医も最初から診察、治療に関わることで眼の後遺症を軽減できる可能性があります。