治験方法について

治療方法について

急性期の治療

急性期の全身症状が重篤であるほど眼には関心がいきにくいが、SJS/TENの発症時より眼所見を把握し、眼表面を消炎することが重要である。

皮膚所見と眼所見の程度は必ずしも一致せず、皮疹が軽度でも眼障害が高度の場合があり、その逆もある。偽膜形成と眼表面上皮のびらんを認める場合には局所治療のみでは消炎が難しく、たとえ皮疹が軽度であってもステロイド等による全身的治療を十分に行うことが望ましい。

SJS/TENによる眼後遺症を防ぐために

重篤な眼後遺症を防ぐために、眼科医との連携を

眼合併症を伴うSJS/TENでは、発症初期の眼科的治療が視力予後に影響すると考えられます。上皮欠損や偽膜の有無については眼科専門医でなければ判断が困難です。

初診時に結膜充血を認める場合や、眼痛などの症状がある場合には、眼合併症を伴う可能性がありますので、なるべく早く眼科医へご紹介ください。

急性期の眼科的治療:

急性期に広範囲な角結膜上皮欠損を生じると、角膜上皮幹細胞が消失する可能性が高くなる。角膜上皮幹細胞が全て消失すると角膜が結膜組織で被覆されるため、視力障害が後遺症となる。感染に留意して、ステロイド点眼等により消炎をはかることが、角膜上皮幹細胞の残存、つまりは眼科的後遺症の防止につながる。

1. 消炎

(1)ステロイド全身投与(ステロイドパルス療法)

ステロイドパルス(ソル・メドロール1000mg/日を3日間点滴)を行い、その後、ステロイドの点滴または内服を継続し、数週間かけて漸減する。眼所見が重篤な場合には、皮膚所見だけでなく眼表面炎症の程度も考慮してステロイド量を漸減する。ただし、患者は全身の皮膚粘膜を広範囲に障害されており、易感染性の状態である。このため感染の合併に最大限の留意が必要である。

ステロイド治療に反応しない患者や重篤な感染症などでステロイド薬を使用できない患者では、免疫グロブリン静注療法(IVIG)または血漿交換療法が推奨されている。(副作用マニュアルにリンク)

(2)ステロイドの眼局所投与

0.1%ベタメタゾンもしくは0.1%デキサメタゾンの点眼あるいは眼軟膏を、眼表面炎症の程度により1日6〜8回投与する。偽膜あるいは上皮欠損を伴う場合は、点眼と眼軟膏をあわせて1日10回程度を目安に投与して消炎をはかる。

2. 感染予防(抗菌薬の点眼)

急性期は眼表面に広範囲の上皮欠損があるために感染のリスクが高く、二次感染の防止に努める必要がある。初診時に眼分泌物もしくは結膜擦過物の培養を行い、菌が検出されれば、薬剤感受性を考慮して抗菌薬を局所投与する。週に1回以上の監視培養(結膜嚢擦過物もしくは眼脂の培養検査)を行う。

重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、あるいはMRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)がしばしば検出されるので注意を要する。これらを認めた場合には薬剤感受性を考慮して1%バンコマイシン眼軟膏などの局所投与を行う。

3. 癒着防止

急性期の消炎が不十分な場合には、眼球結膜と眼瞼結膜の癒着(瞼球癒着)が進行し、放置すると強固な器質的癒着となる。

癒着を生じかけた場合には、消炎が足りない可能性あり、治療内容を見直す。直す。全身的なステロイドの漸減が早い場合に、しばしば偽膜の増加を認め、癒着の進行を生じやすくなる。

生じた癒着に対しては点眼麻酔下に硝子棒を用いて機械的に癒着を剥離し、瞼球癒着を予防または軽減する。

具体的指針を以下に示す

眼科的所見の分類

軽症:充血のみ
中等症:眼表面上皮(角膜上皮、結膜上皮)のびらん(上皮欠損)もしくは偽膜形成
重症:眼表面上皮(角膜上皮、結膜上皮)のびらん(上皮欠損)と偽膜形成の両所見

軽症以上の所見がある場合、眼分泌物もしくは結膜擦過物の培養を行って抗菌点眼薬を1回4回程度点眼する(眼軟膏可)。培養検査により細菌が検出されれば、薬剤感受性を考慮して抗菌点眼薬を選択する。

中等症以上ではさらに、0.1%ベタメタゾンもしくは0.1%デキサメタゾン点眼あるいは眼軟膏を、所見の程度により1日6~8回局所投与する。

重症では、点眼と眼軟膏をあわせて1日10回程度を目安に0.1%ベタメタゾンもしくは0.1%デキサメタゾンを局所投与して消炎をはかる。

点眼と軟膏の選択について

点眼よりも眼軟膏の方が、眼表面での貯留性が良好であるが、一般的には眼軟膏よりも点眼の方が扱いなれており、目に入れれやすい。

SJSやTENでは、眼瞼部の表皮にも病変があり、点眼や眼軟膏を入れにくいことがある。そのような場合は、仰臥位で天井を見つめてもらって点眼するなど、点眼を主体にするとよい(例、ベタメタゾン点眼 1日10回、ベタメタゾン眼軟膏 眠前)。

小児で点眼すると泣いてしまう場合や、意識低下があり閉瞼したままである場合などは、軟膏を主体にする(例:ベタメタゾン点眼 1日5回、ベタメタゾン眼軟膏  1日5回)

亜急性期の眼科的治療:

急性期の治療でステロイドパルスと眼局所のベタメタゾン投与を開始して、治療が奏功した場合、皮疹が順調に軽快する。しかし全身状態が改善しても、眼表面の炎症が遷延することがある。そのような場合は、皮膚所見だけではなく眼所見も考慮して、ステロイドの減量を行うことが必要である。

急性期の角膜上皮欠損が治らないままに遷延すると、「遷延性上皮欠損」と呼ばれる難治な状態となる。「遷延性上皮欠損」は感染症や、角膜穿孔を生じやすく、失明につながる可能性が高い状態である。このような状態のとき、全身状態は改善していることが多く、できれば角膜専門医への紹介が望ましい(角膜専門医は、日本角膜学会HPで公表)。

遷延性上皮欠損に対しては、自家培養口腔粘膜上皮移植術が有効である。また、遷延性上皮欠損に対して羊膜移植を行っている施設もある。

慢性期の眼科的治療:

慢性期の治療は、眼表面の管理が主体となる。慢性期に生じる後遺症としては、主に、重篤なドライアイ、睫毛乱生、眼表面炎症、眼球癒着、視力障害などがある。

1. 重篤なドライアイ

重篤な眼合併症を生じたほぼすべての患者が、慢性期に重篤なドライアイを伴う。人工涙液の頻回点眼、ヒアルロン酸の点眼や涙点プラグなどの治療を行う。

新しくドライアイ用に開発され承認を受けた点眼液として、ジクアス®とムコスタ®がある。このうちムコスタ®は消炎作用を有しており、SJSを対象とした治験において充血の軽減、乾燥感の軽減を得ることが出来た。慢性期に充血とドライアイ症状を有する高度ドライアイ患者で自覚症状およびドライアイ所見の軽減を得ることが多い。一方、ジクアス®はドライアイ患者全般に比較的よく処方される薬剤となっている。これらの点眼液は、ヒアルロン酸とは別にいずれかを処方し、有用であれば継続する。

2. 睫毛乱生

睫毛抜法を2〜3週ごとに行う。重症例では手術的に睫毛根部を摘出する方法が有効である。

多重睫毛や内反症では、眼形成の専門医による手術を受けることが望ましい。

3. 保菌・眼表面炎症

慢性期でも眼脂を認める患者が多い。眼脂を伴って充血を生じた患者には眼脂培養を行い、適切な抗菌薬を点眼する。MRSA、MRSEが検出される患者では眼表面炎症が遷延する場合がある。

4. 瞼球癒着

急性期の癒着防止治療にもかわらず、瞼球癒着が生じることがある。保存的治療では軽快せず、羊膜移植や自家培養口腔粘膜上皮シートを用いた結膜嚢再建術が有用である。

睫毛乱生が高度な場合や、眼脂を伴って常に充血を有する患者では、瞼球癒着や角膜への結膜組織への侵入がゆっくりと進行する場合がある。

慢性期においても、癒着の緩徐な進行に注意する。

5. 視力障害

最も重篤な眼後遺症は視力障害である。
眼表面の癒着を伴う高度の視覚障害に対して、自家培養口腔粘膜上皮シートが先進医療Bとして実施されている(府立医大眼科HPにリンク)。

海外では強膜支持型の特殊な大型ハードコンタクトレンズの装用によって視力を向上させる方法があるが、レンズの直径が大きく(約16〜23㎜)、アジア人や高度の癒着を伴う重症症例には適さない。そこで本疾患による視力障害患者に対する新規医療器具として、輪部支持型のハードコンタクトレンズの開発が進められ、2014年に医師主導治験が行われた。