特徴的な眼所見
SJS/TENにおける眼合併率は約60%とされ、発疹よりも眼の症状(充血、眼痛)が先行することが多い。したがって、発疹を生じた時点で両眼が充血している場合は、眼合併症を伴う可能性が高い。
皮疹が軽度でも眼症状がみられる場合には、できるだけ早く(1-2日以内)に眼科受診を行い、眼科的重症度を確認する。眼表面上皮のびらん(上皮欠損)もしくは偽膜形成を認める場合には、眼後遺症を生じるリスクが高く、発症初期より眼所見を把握し、眼表面を消炎することが重要です。
京都府立医大眼科の調査では、眼障害を伴う症例の全例が、結膜充血、口唇・口腔内の発赤・びらん、爪囲炎を伴っていた。両眼が充血し、口腔周囲に出血やびらんがあり、爪の根元が発赤している場合には、重篤な眼合併症を伴う可能性が高い。
急性期の特徴的眼所見
充血:両眼性に結膜充血をきたす。軽い充血に見えても広範囲の上皮欠損を伴うことがあり、肉眼での判断は危険である(下図)。痛くて眼を開けられないという症状は要注意である。眼病変の合併が疑われる場合(充血、眼痛)、早急な眼科受診を行って、「眼表面上皮のびらん(上皮欠損)」あるいは「偽膜」の有無をチェックする。
眼表面上皮(角膜上皮、結膜上皮)のびらん(上皮欠損):
眼表面上皮(角膜上皮および結膜上皮)は軽症では点状の上皮障害、中等症では角膜上皮欠損あるいは結膜上皮欠損、重症では広範囲の角結膜上皮欠損を生ずる。点状の上皮障害を認める場合には、数日以内に上皮欠損を生じる可能性がある。
偽膜形成:
偽膜はフィブリン、壊死を生じた上皮細胞、浸潤細胞(主に好中球)からなり、眼表面の炎症が高度であることを示す。治療が奏功すると、偽膜は自然に減って脱落していく。治療中に偽膜が増加する場合には、眼表面の炎症が増悪していると考えられる。
瞼球癒着:
高度の炎症は眼瞼にも生じ、眼瞼の発赤腫張、重症では「睫毛の脱落」を伴う。消炎が足りない場合や、高度の炎症を伴う場合には、急速に瞼球癒着(まぶたと眼球の癒着)が進行する。
病態
角膜と結膜の境目にある幅2-3ミリの輪部と呼ばれる部位には角膜上皮のステムセルが存在する。SJSやTENの急性期、全身の皮膚や粘膜に発疹、びらんを生じているとき、眼の表面にも炎症を生じて、びらん(上皮欠損)を生じる。このとき、輪部上皮がすべて消失してしまうと、輪部から角膜上皮を供給できなくなり、結膜上皮が角膜のうえに伸展する。結膜上皮とともに、血管も侵入し、透明な角膜が混濁する。角膜上皮のびらん(上皮欠損)を生じても、輪部上皮が残存すれば、角膜は角膜上皮で修復されて透明性が維持される(図)。
慢性期の特徴的眼所見
視力障害とドライアイが慢性期の主症状であり、さらに睫毛乱生や瞼球癒着などの瘢痕性変化による不快な症状が加わる。眼表面の管理のために、定期的な眼科通院を必要とする。
ドライアイ:
涙液は水分のほか、粘液、油性成分から成り立ちますが、SJSでは全てが少ないドライアイとなる。涙腺の導管閉塞に加えて、涙へ粘液を分泌するゴブレット細胞が消失、油を分泌するマイボーム腺が消失するからと考えられる。人工涙液を補充しても、どんどん蒸発してしまって眼の表面が乾き、眼痛、乾燥感、目をあけづらい、といった症状の要因となる。
角膜混濁:
結膜上皮が血管・結合織を伴って角膜表面を被覆すると、角膜表面は不透明、凹凸不整となり、視力障害をきたす。眼表面を被覆した再生上皮は分化異常をきたしており、重症では眼表面が皮膚のように角化する。
睫毛乱生:
炎症の後遺症として睫毛乱生が存在する。
瞼球癒着:
急性期の上皮欠損の修復に伴い、癒着が生じる。
慢性結膜炎:
慢性期に眼表面の状態は落ち着くが、非特異的な炎症が存在する。一部の症例では軽度の再燃を繰り返しながら病変が進行する。
SJS/TEN 慢性期眼所見のグレード分類
SJS/TEN 慢性期の特徴的所見を明らかにすることを目的に、眼表面の瘢痕化を評価する以下の13項目についてグレード分類が作られた。
角膜所見:
輪部ステムセル疲弊、結膜侵入、血管侵入、角膜混濁、角化、上皮欠損、点状表層角膜症
結膜所見:
充血、瞼球癒着
眼瞼所見:
睫毛乱生、皮膚粘膜移行部の変化、マイボーム腺開口部、涙点閉鎖
眼科に通院するSJSの138眼を対象とした解析では、8割以上が輪部上皮を完全に消失しており、血管侵入 Neovascularization、角膜混濁 Opacification、瞼球癒着 Symblepharonを高率に認めた(下図)。
この臨床スコアは国際的にも高く評価されており、培養口腔粘膜上皮シート移植や輪部支持コンタクトレンズの適応患者の評価や、術後所見の評価に用いられた。