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重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson 症候群と関連のある遺伝子について

重症薬疹は、生命に関わる重篤な薬疹でありSJS、TEN、薬剤性過敏症症候群が重症薬疹とされている。これらの中で、重篤な眼合併症を生じるのは、SJSとTENである。現在、重症薬疹とHLAの関係が着目されている。

HLAと遺伝子多型

HLA(Human Leukocyte Antigen)は、初め名前の通り白血球の血液型として同定されたが、現在ではヒトの免疫にかかわる重要な分子である組織適合性抗原であることがわかっている。HLAにはclass I とclass IIが存在し、class IIが抗原提示細胞を主体とした免疫細胞に発現しているのとは対照的に、class Iは、すべての細胞に発現している。また、class Iが、ウイルスに感染した細胞においてウイルス抗原と一緒にT細胞に提示されることから、class Iの違いが、ウイルス感染時の生体防御反応の違いに関与していることもわかってきている。このHLAの型は親から引き継がれ、様々な疾患の発症と関連している。

また、人には様々な体質が存在する。例えば、太りやすい体質や太りにくい体質、また、糖尿病になりやすい体質、なりにくい体質、高血圧になりやすい体質、なりにくい体質などである。最近、これらの体質は、生命の設計図であるゲノムに存在する個人差により生じることがわかってきた。このゲノムに存在する個人差は何百カ所もあり、遺伝子多型と呼ばれる。この体質をつかさどる遺伝子多型は、ゲノムの個人差により生じるため、親から子に遺伝する遺伝子疾患とは異なる。

重症薬疹における重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の位置づけ

現在、重症薬疹とHLAの関係が着目されているなかで、たとえば、抗てんかん薬であるカルバマゼピンによる重症薬疹の発症は、中国人ではHLA-B*15:02と強く関連すること、日本人とヨーロッパ人では、HLA-A*31:01が関連することが報告されている。また、抗痛風薬であるアロプリノールによる重症薬疹の発症は、中国人、ヨーロッパ人、 日本人において、HLA-B*58:01が共通して関連していることが報告されている。しかしながら、感冒薬による発症については、今まで報告がなく、最近になって筆者らが世界で初めて報告した。

感冒薬に関連して発症したStevens-Johnson症候群とHLA

以前、我々は、重篤な眼合併症を伴うSJSの発症には、HLA-A*02:06が強く関連することを報告した。また、一方、重篤な眼合併症を伴うSJS患者の約8割が、感冒薬により発症していることも報告してきた。そこで、重篤な眼合併症を伴うSJSのうち、感冒薬により発症した患者に絞って、HLA解析を行ったところ、HLA-A*02:06とHLA-B*44:03に強い関連を認めることが明らかとなった。京都府立医科大学眼科に通院する感冒薬に関連して発症したSJS患者(以下、感冒薬SJS)131名ならびに健常コントロール419名を対象にHLA解析を行ったところ、感冒薬SJS発症とHLA-A*02:06の間に大変強い関連をみとめた(p=2.8X10-16,オッズ比5.7)。また、京都府立医科大学サンプルでの解析にて、p<0.05の関連をみとめたHLA-A型4つ(A*02:06, A*03:01, A*11:01, A*24:02)、HLA-B型7つ(B*13:01, B*15:01, B*44:02, B*44:03, B*46:01, B*52:01, B*54:01)、HLA-C型3つ(C*03:04, C*05:01, C*12:02)について、国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)が全国をカバーする重篤副作用症例集積ネットワークを通じて収集した感冒薬SJSのうち急性期に重篤な眼合併症(角結膜上皮びらん・偽膜形成)を認めた患者20人と健常コントロール220人を対象に解析した。その結果、HLA-A*02:06とHLA-B*44:03に有意な関連を認めた。京都府立医科大学と国立衛研の症例を合わせた重篤な眼合併症を伴うSJS患者151人、コントロール639人の結果では、HLA-A*02:06のp値は2.7X10-20、オッズ比は5.6で、HLA-B*44:03のp値は0.001、オッズ比は2.0であった。大変興味深いことに、重篤な眼合併症を伴う感冒薬SJSと有意に相関を示すHLA-A*02:06とHLA-B*44:03は、重篤な眼合併症を伴うが感冒薬以外で発症しているSJSや、重篤な眼合併症を伴わない感冒薬SJSとは関連しなかった。このことは、同じように重篤な眼合併症を伴っていても感冒薬SJSと、その他の薬剤で発症したSJSでは、遺伝子素因が異なること、また、同じように感冒薬で発症しても、重篤な眼合併症を伴う感冒薬SJSと重篤な眼合併症を伴わない感冒薬SJSとでは、遺伝子素因が異なることを示している。

原因薬剤によりその遺伝子素因が異なること(カルマバゼピン:HLA-B*15:02・HLA-A*31:01、アロプリノール:HLA-B*58:01、感冒薬(重篤な眼合併症あり):HLA-A*02:06・HLA-B*44:03)、また、重篤な眼合併症を伴う、伴わないで、遺伝子素因が異なることは、それぞれの病態が異なっている可能性を示しており、SJS/TENがいろいろな病態・疾患の集まりであることを示唆している。

Stevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)は、いろいろな病態・疾患の集まりである
出典:「専門医のための眼科診療クオリファイ」中山書店

また、重篤な眼合併症を伴う感冒薬SJSについて、日本人では、HLA-A*02:06が大変強い相関を示すが、このHLA-A*02:06は、欧米人や中国人では大変頻度が少ない。一方、HLA-B*44:03は、日本人だけではなく、欧米人や中国人にもある一定の頻度で存在し、また、1982年に眼科医Mondinoらが、1986と1987年に皮膚科医Roujeauらが、SJS/TENとの関連を報告した血清型HLA-B12 (HLA-Bw44)は、遺伝子型のHLA-B*44:03とHLA-B*44:02に相当することがわかっている。HLA-B*44:03については、感冒薬SJSの共通のHLAマーカーになる可能性があり国際共同研究による解析を進める必要がある。

重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群と遺伝子多型

我々は、HLAに加えて、重篤な眼合併症を伴うSJS発症と関連する遺伝子多型についても解析している。重篤な眼合併症を伴うSJS患者では、薬剤投与の前にウイルス感染症やマイコプラズマ感染症を思わせる感冒様症状を呈する事が多く、また、急性期のみならず慢性期にもMRSA・MRSEを高率に保菌し、眼表面炎症と感染症を生じやすい。筆者らは、重篤な眼合併症を伴うSJS発症の素因として自然免疫応答異常が関与している可能性を考え、遺伝子発現解析ならびに遺伝子多型解析を行った。末梢血単球を用いた遺伝子発現解析では、細菌の菌体成分LPSに対するIL-4Rの遺伝子発現が患者とコントロールで異なることを見出した。また、自然免疫関連遺伝子やIL-4Rに関わりの深い遺伝子に着目して遺伝子多型解析を行ったところ、TLR3、IL4R, FasLの遺伝子多型と関連することが明らかとなった。TLR3は、病原体認識機構であるToll like receptorファミリーに属しウイルス由来二本鎖RNAを認識する受容体である。また、FasLは急性期の患者血清中で上昇することが報告されている。IL4R Gln551Arg(rs.1801275)については、喘息などのアレルギー疾患では、Arg551が健常人と比較して有意に増加するのに対して、重篤な眼合併症を伴うSJSでは対照的にGln551が健常人と比較して有意に増加していた。さらに、全ゲノム解析による遺伝子多型解析では、PGE2の受容体の一つであるEP3と関連していることが明らかとなった。

重篤な眼合併症を伴うSJSと有意に関連のある遺伝子多型
出典:「専門医のための眼科診療クオリファイ」中山書店

また、筆者らは重篤な眼合併症を伴うSJS患者の眼表面組織では、このEP3タンパクの発現が著明に減少していることも発見した。

眼表面組織におけるEP3の発現

ほぼ正常な結膜である結膜弛緩症の結膜組織では、免疫染色において結膜上皮細胞にEP3がしっかり染色されるが、重篤な眼合併症を伴うSJS患者の眼表面組織では、EP3タンパクの発現が著明に減少している

感冒薬に含まれるアセトアミノフェンやNSAIDsが、EP3のリガンドであるPGE2の産生を抑制することも、重篤な眼合併症を伴うSJS発症に大きく関与している可能性が示唆される。
一般に、微生物感染が生じても、発症の素因がない人では正常の自然免疫応答が生じ、薬剤服用後に解熱・消炎が促進され、感冒は治癒する。しかし、発症素因がある人に、何らかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ、その上に、薬剤服用が加わって、異常な免疫応答がさらに助長され、SJSを発症するのではないかと我々は考えている。

SJSの発症機序についての仮説

微生物感染が生じても、発症の素因がない人は、正常の自然免疫応答が生じ、その上に、感冒薬が加わって、解熱・消炎が促進され、感冒は治癒する。しかし、発症素因がある人に、何らかの微生物感染が生じると、異常な自然免疫応答が生じて、その上に、感冒薬が加わって、異常な免疫応答がさらに助長され、SJSを発症する。

出典:上田真由美、外園千恵. 重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群ならびに中毒性表皮壊死症. 臨床眼科. 2013年増刊号. Vol.67. no.11. p132, 医学書院

終わりに

重篤な眼合併症を伴うSJS発症にHLAをはじめとした遺伝子素因が関与することは明らかであり、原因薬を感冒薬に絞ることでさらに強い関連を示すことも明らかとなってきている。また、疾患発症に関連する遺伝子多型も複数見つかっており、さらにその組み合わせにより、発症しやすさもさらに上昇することも明らかとなってきている。たとえば、TLR3 rs.3775296T/TとHLA-A*02:06の両方を持つ人は、オッズ比が47.8になり、両方を持っていない人と比較して、263倍発症しやすいこともわかっている。将来、複数の遺伝子多型とHLAを組み合わせることにより、前もって重篤な眼合併症を伴うSJSを発症しやすい体質を予測し、予防ならびに早期診断ができるようになる日が来るかもしれない。また、発症に関連する遺伝子を明らかにすることにより、発症機序の解明につながり、疾患発症予防法ならびに新しい治療法の開発につながることが期待される。

出典:井上幸次編集「専門医のための眼科診療クオリファイ」中山書店 2014年。 「25. 角膜混濁のすべて」Stevens-Johnson 症候群と関連のある遺伝子について教えてください。より改変

文責:京都府立医科大学眼科学教室、感覚器未来医療学講座
上田真由美